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『SCRAMBLE』は、ASKAにとって7年ぶりのオリジナル・アルバムだ。すべてはここから始まったとも言えるのが、2008年のシングルで、1曲目に収められた『UNI-VERSE』だ。“UNIVERSE”という言葉は“UNI(単一の)”と“VERSE(詞、転じて歌)”で出来ていることを発見したASKAが、共同体としての意識、さらに、そこにむけて歌うことの意義を問うた大切な作品だ。
「自分のなかではもっと世の中に広がっていってほしい楽曲でもあるし、今回アルバムに入ることで、新たな可能性が広がればと思ってる」。

そして2曲目で、早くも重要な楽曲が紹介される。
「“いろんな人が歌ってきたように”です。この曲は、すべては簡単に言ってしまうと “愛”なんだということで、これまでも色々な人がそれに気がついて歌ってきたし、僕も同じ場所にいて、分かってたつもりではあったけど、そこへは行かず、そこから切り崩したある一点を歌ったりもしてきた。でも結局は “愛”なんだと気づいて、これからはきっと、人生でも歌を作ることでも、何度も何度もここに戻ってくるんだろうな、ということを歌っているんです」。

彼は “愛”という言葉の横に“すべてを受け入れることから生まれる強さ”という考え方を並べつつ、丁寧に話してくれた。ちなみに、この曲を2曲目にしたのは、聴いてくれる人達に、早い段階でいまの自分の色濃い作品に触れて欲しかったからだそうだ。

アルバムは、小気味よく表情を変えていく。3曲目の『朝をありがとう』には、昭和の歌謡ポップス的な明快さがある。彼のア-ティスト・イメ-ジを混乱させたいわけじゃないが、例えばこの曲にあるのは、若き日の郷ひろみ的な躍動というか…。
「でも、表情としては確かに似てるところがあるかもしれない(笑)。 僕は“いま歌う”シリ-ズという、配信で歌謡曲のカバ-をやっているけど、そこにある世界観の断片は含まれているかも知れないし」

この楽曲は、バンドとともにスタジオのなかで短時間で作り上げた。でも明快なのは、この曲ばかりではない。アルバム全体を通じて言えるのは、微妙なグラデ-ションで勝負するというより、伝えたい色彩が鮮明にある楽曲が多いということだ。
「確かに曲ごとに、喜怒哀楽というのがハッキリ分かるアルバムでしょうね。最初からそこを求めていたわけじゃないけど、出来上がるとそうなっていた。前は絞り出した感情をそのまま伝えるのはヒステリックなことだと思ってたので、敢えて抑えてこそ相手に伝わるんだろうって、そんなやりかたをしてた時期もあった。でも今回は感情の出しかたもハッキリしてる」。

その先鞭となったのが、4曲目の『L&R』だろう。ここで歌われる“R”を行く“オレ”がASKA本人なら、“L”を行く“オマエ”とは、誰にも想像がつくあの人物のことだ。そう思われることを、一切隠さない作風だ。でも、曲ごとに伝えるべきことがハッキリしているのは、楽曲の創作過程において、方法論がハッキリしてた結果でもありそうだ。アルバム・タイトル曲の『SCRAMBLE』からして、まさにそうだ。この歌が誕生するキッカケとなったのは、ASKAのメキシコ旅行だった。
「ホテルのTVで現地の“トップ20”的な番組を観てたら、どの曲もどの曲も良くてね。“なんだ、メキシコはメロディの宝庫なんだ”と思った時、“こんな曲が書けたなら…”って、すぽ-んと出てきた曲があって、それがこの曲でね」。

インスパイアされたものが明確だと、澱みない表現となる場合が多い。それは楽曲のキャッチさにもつながる。そして5曲目の『どんなことがあっても』も、インスパイアされたものが明確なのだ。ここには70年代の洋楽からの影響がある。
「もともと曲を作り始めた時はロックだったんだけど、だんだんポップに寄っていって、となると歌のテ-マも変わっていって、その時、“君の友達”みたいな曲にしたいよね、といった瞬間、イントロの感じも歌う時の気持ちもそうなっていくのが面白かった」

さらに特徴的なのは、『SCRAMBLE』が完成するまでの過程だ。『歌の中には不自由がない』は、今年1月の『ASKA CONCERT2012 昭和が見ていたクリスマス!? Prelude to The Bookend』のコンサ-トの際にサプライズ配信した楽曲だ。アレンジの感覚も相まって、今回の10曲のなかで一番大陸的メロディを感じる『水ゆるく流れ』は、海外のTOYOTAプリウスのCMのために30秒のインストとしてまず世に出て、それを元に新たに完成されたものだった。さらに『僕の来た道』なら、東京厚生年金会館の『ASKA 10DAYS SPECIAL グッバイ&サンキュー東京厚生年金会館 "ここにあなたの足跡を"』の時、既に歌詞のない “♪ラララ”の形で披露されている。つまりファンは様々な“第一次遭遇”を既に済ませた上で、アルバムで改めて完成形に触れることとなったのだ。
「“未完成のものを披露する”ことへの抵抗は、モノを作る人の中で強かったりするんだけど、実はぼくはあんまりなくてね。むしろ “これはどういう風に変わって行ったのか”を知ってもらいたい。そしてさらに、“でもそこには落ち着かないよ”というあたりまで見てもらう喜びというかね」

最後にこのアルバムは、なぜ『SCRAMBLE』と命名されたのかを語ってもらおう。
「スクランブルには様々な意味があるけど、“スクランブル交差点”のスクランブルに近いのかな。そこは混沌としてて、人々がすれ違うのは一瞬の出来事のようで、でも実は粒々のようにみえる人間それぞれに意志や意識があって、道の反対の、ちゃんと到達すべきところに到達するように出来ている。もし予定しないところに辿り着いたとしても、それは“もしそこに辿り着いてしまったらどうしよう”という意識が生んだ結果なだけでね。そうやって自分達は時間という逃れようもないもののなかで、一瞬も止まらずに動いているんだなぁ……ということを、どんどん考えていくと深みにハマるので(笑)、それをポピュラ-・ミュ-ジックとして成立するあたりに止めて表現したのがこのアルバムなのかもしれないんですけどね」

今回はCDのみならず、ブル-レイ、写真集、などなどが、ひとつにパッケ-ジされた形のリリ-スとなるそうだ。でも、そこに何が入っているのかを、詳細に記述するのはやめておく。なぜならそれは、パッケ-ジを開く瞬間の喜びを奪うことにもなるからだ。

文 =小貫信昭